【事例II 徹底解剖】負債4億からの逆転劇。丸三老舗に学ぶ「老舗の生存戦略」と価値のアップデート
中小企業診断士 二次試験 事例II対策
【事例II 徹底解剖】負債4億からの逆転劇。丸三老舗に学ぶ「老舗の生存戦略」と価値のアップデート
最終更新:2026年3月|文字数:約8,000字|想定読了時間:12分
中小企業診断士二次試験の受験生の皆さん、お疲れさまです。今回は事例II(マーケティング・流通)で頻出の「老舗企業の変革」というテーマを、実在する企業の事例を通して深掘りします。
取り上げるのは、茨城県鹿嶋市に本拠を構える「鹿島菓匠 丸三老舗」。文政5年(1822年)創業、200年超の歴史を誇る老舗和菓子店でありながら、3億8,000万円もの負債を抱えた絶望的な状況から、7代目・笹沼和彦氏の手で経営再建を遂げつつある企業です。
本記事では、この丸三老舗の軌跡を「診断士の眼」で徹底分析します。答案に書けるキーワード、論理構成、そして近年注目度が増している海外市場開拓まで、事例IIの得点力を底上げする知見を凝縮しました。
1. 企業概要|丸三老舗とは何者か
まず事例問題に取り組む際の鉄則、「与件文を正確に読む」に倣い、丸三老舗の企業プロフィールを整理しましょう。試験本番でも最初に行うべきは、企業の全体像を掴むことです。
基本データ
丸三老舗は、1822年(文政5年)に茨城県鹿嶋市の鹿島神宮参道で創業しました。鹿島神宮という全国的に知名度の高い観光地に隣接し、参拝客やサッカーの鹿島アントラーズのサポーターなど、多様な客層を持ちます。代表銘菓は、2005年の全国植樹祭で天皇皇后両陛下に献上された「常陸風土記」や、鹿島神宮に奉納される「鹿島立最中」です。
現在、Instagramのフォロワーは7,000人を超え、和菓子店としては異例のSNS発信力を持つ企業へと変貌を遂げています。地元鹿嶋市だけでなく、全国のスイーツファンやインバウンド観光客にもその名が浸透しつつあります。
しかし、ここに至る道のりは決して平坦ではありませんでした。7代目社長の笹沼和彦氏が先代から経営を引き継いだ当時、直営店を複数抱えながら3億8,000万円もの負債を抱えるという、文字通りの「債務超過」状態にありました。老舗の看板と歴史が重荷となり、「伝統を守る」ことがそのまま「赤字を重ねる」ことと同義になっていたのです。
この状況は、試験で出題される典型的な「事業承継×財務再建」の複合問題と重なります。ここからの再建プロセスこそが、事例IIの学びの宝庫です。
「文政5年創業の200年以上の歴史」「天皇陛下への献上品実績」「鹿島神宮参道という立地優位性」「地域の観光資源との連動」
2.【SWOT分析】「強み」の多重構造化
事例IIの第1問では、高い確率で「A社の強み(S)と弱み(W)を述べよ」という設問が出ます。丸三老舗のケースでは、強みが「多重構造」になっている点に注目してください。単に「老舗で有名」と書くのではなく、なぜ強いのか、その強みがどのような戦略的価値を生むのかまで踏み込んで書けるかが合否を分けます。
① 歴史・ブランド(権威性としての強み)
「200年の歴史がある」だけでは加点は弱いです。重要なのは、その歴史が「公的な評価」によって裏書きされているという事実です。天皇陛下への献上実績は、和菓子業界において最高峰の信頼の証であり、これは一朝一夕に構築できるものではありません。
「文政5年創業の歴史と天皇陛下への献上品という高い格式を有し、顧客からの信頼性が高い老舗ブランドである」
この強みは、後述する海外市場開拓において「ジャパンブランド」の具現化として極めて有効に機能します。事例IIでは、強みの記述が後半の施策提案の「根拠」となることを常に意識しましょう。
② 素材・地場資源(差別化の源泉)
笹沼氏は茨城県産のシャインマスカットやイチゴなど、高品質な地場食材を自ら厳選し、鮮度の高い状態で製品化することにこだわっています。「地場資源の活用」は事例IIにおける鉄板テーマであり、近年の出題でも地域特産品を軸とした差別化戦略が繰り返し問われています。
「地元茨城産の高品質な農産物を、職人の目利きにより厳選・調達し、鮮度を活かした製品化を行うことで他社との差別化を実現している」
ここでのポイントは、素材の良さだけでなく「目利き」という職人の技術力をセットで論じることです。素材は誰でも仕入れられますが、それを最高の状態で製品に仕上げる「ノウハウ」こそが真の強みとなります。
③ 技術力と探求心(製品開発力)
笹沼氏は伝統的な和菓子製造技術に加え、低温調理やハーブの活用など、洋菓子の技法も融合させた革新的な製品開発に取り組んでいます。これは、アンゾフの成長マトリクスでいえば「新製品開発」に該当し、既存顧客の飽きを防ぎつつ新たな顧客層を開拓する原動力となっています。
「伝統的な和菓子製造技術と、低温調理やハーブなどの新技法を融合させた革新的な製品開発力を有し、標的顧客層の拡大に貢献している」
試験で「今後の方向性」を問われた際にも、この「技術の融合力」は施策提案の核心部分として活用できます。
3.【チャネル・財務戦略】スクラップ&ビルドとデジタルシフト
負債3億8,000万円を抱えた状態からの立て直しは、事例II(マーケティング)だけでなく、事例I(組織・人事)や事例IV(財務・会計)の視点も横断する複合的な論点です。ここを多面的に書ける受験生は、確実に評価が高まります。
不採算店舗の整理(選択と集中)
笹沼氏が最初に着手したのは、8店舗あった直営店の大胆な整理でした。最盛期には鹿嶋市内外に複数の販売拠点を展開していましたが、これを鹿島神宮参道の旗艦店に集約するという判断を下しました。
「不採算の直営店舗を閉鎖することで固定費(賃料・人件費・光熱費)を大幅に削減し、限られた経営資源を旗艦店とECサイトへ集中的に投下することで、収益構造の抜本的改善を図った」
ここで重要なのは、「規模の縮小」は「衰退」ではなく「戦略的選択」であるという視点です。中小企業においては、身の丈を超えた多店舗展開が経営を圧迫するケースが少なくありません。事例IIの答案でも「なぜ縮小したのか」を売上ではなく利益の観点から論じましょう。
販路の多角化(EC化)
店舗整理と並行して、笹沼氏の奥様・敦子氏が主導したEC(電子商取引)展開は、丸三老舗の経営を大きく変える転換点となりました。自社ECサイトの構築に加え、BASEなどのプラットフォームを活用し、全国どこからでも購入可能な体制を整えました。
これはアンゾフの成長マトリクスにおける「新市場開拓」に該当します。従来の「鹿嶋市近郊の対面販売」という物理的制約を超え、全国の和菓子好きという巨大な潜在市場にアクセスできるようになったのです。
「ECサイトの構築により、地理的制約を克服し商圏を全国へ拡大。コロナ禍における巣ごもり需要も取り込み、実店舗の売上減少を補完する安定的な収益チャネルを確立した」
EC化は現代の事例IIで最も期待される加点要素のひとつです。ただし、単に「ECを始めた」と書くだけでは不十分で、「なぜECが有効なのか」「何を解決するのか」まで踏み込んだ記述が求められます。丸三老舗の場合、それは「物理的制約の克服」と「収益チャネルの多角化」です。
さらに注目すべきは、EC展開にともなう顧客データの蓄積です。実店舗での対面販売では得られなかった「どの地域の、どんな年齢層が、どんな商品を、どの季節に購入するか」という定量データが手に入るようになりました。このデータはターゲティング精度の向上、季節限定商品の企画、リピーター施策の最適化に直結します。事例IIの答案においても、EC化を「販売手段の変更」ではなく「マーケティング・インフラの構築」として論じられると、より高い評価が得られるでしょう。
4.【撤退の決断】東京進出の失敗から学ぶ「収益性」の視点
丸三老舗の経営改革史の中で、特に二次試験の教材として価値が高いのが、東京進出とその撤退のエピソードです。
新宿高島屋への出店と撤退
2022年冬、新宿高島屋から熱烈な出店オファーを受けた笹沼氏は、「地方の和菓子屋が天下の高島屋に求められるチャンスは滅多にない」と意気込み、出店を決断しました。しかし結果として約2年で退店するに至っています。
また、東京・永福町に出店した専門店「まるさんかじつ」も同様に閉鎖。笹沼氏自身がnote.comで公開した振り返り記事では、この失敗を率直に語り、その教訓を共有しています。
失敗の構造分析
撤退に至った原因は、シンプルに「売上<コスト」の構造問題です。具体的には以下の2つのコスト要因が重くのしかかりました。
第一に物流コストです。茨城県鹿嶋市から東京都心まで毎日配送するため、1ケースあたり1,000円を超える運賃が発生しました。生菓子は鮮度が命であり、在庫を持つこともできないため、少量多頻度の配送が避けられません。
第二に人件費です。東京都の最低賃金は茨城県を大幅に上回り、テナント料と合わせた都市部特有の高コスト構造が、損益分岐点を大きく押し上げました。
「売上至上主義」の危険性を認識すること。百貨店への出店は売上拡大やブランド向上に寄与する一方、物流費や都市部の運営コストを考慮した利益率の確保が伴わなければ、かえって財務を毀損する。事例IIの解答でも「〇〇に出店する」という施策には必ず「コスト面の検討」を一筆加えることで、事例IV的な複眼思考を示すことができ、評価が高まる。
この「挑戦→失敗→撤退→教訓化」というプロセスは、実は中小企業経営のリアルそのものです。試験では華々しい成功事例だけでなく、「適切な撤退判断」の重要性も問われます。不採算事業からの撤退を「失敗」ではなく「戦略的意思決定」として評価できる視点を持ちましょう。
笹沼氏自身もnote.comの振り返り記事で、この経験を「大きな財産」と表現しています。高島屋の常設店を構えることの大変さを「身銭を切って」体感したことが、その後の経営判断の精度を大きく高めたというのです。この姿勢は、診断士として助言を行う際の重要な視座でもあります。「やめる」ことの助言は「始める」ことの助言と同等以上に難しく、また同等以上に価値があります。
事例IIにおいても、「チャネル拡大」一辺倒の助言ではなく、「撤退基準の設定」や「テスト出店による段階的リスク管理」といった慎重な視点を盛り込むことで、より実務に即した深みのある答案になるでしょう。
5.【新市場開拓】海外市場への挑戦と「価値の再定義」
現在、笹沼氏が注力している海外進出は、まさに「ブルーオーシャン戦略」の実践です。JETROの支援を活用しながら海外事業部の立ち上げを進めており、展示会への出展やバイヤーとの商談を積極的に行っています。JETROの求人情報によれば、海外事業部のメンバーには「インバウンド・アウトバウンド双方の販売戦略の構築」が求められており、将来的には現地事業の責任者への昇格や、暖簾分け(フランチャイズ的な独立)の選択肢も用意されています。この柔軟な人材戦略自体が、中小企業の海外進出モデルとして注目に値します。
国内の「価格の壁」を打破する逆転発想
日本国内には「和菓子は1個200〜300円」という暗黙の価格帯が定着しています。経済学でいうアンカリング効果(先行する数値が後の判断に影響を与える心理現象)によって、消費者の頭の中に「和菓子=安価なもの」という固定観念が根付いているのです。
その結果、原材料費や人件費が高騰しても価格転嫁が困難という構造的な課題を抱えています。これは丸三老舗だけの問題ではなく、日本の和菓子業界全体が直面する課題です。
笹沼氏の戦略的転換は、価値を正当に認めてくれる海外市場で勝負することでした。パリやバルセロナといった食文化への感度が高い都市で「1個1,000円」クラスの和菓子として販売し、その実績を国内にフィードバック(逆輸入)することでブランド価値を再定義するという二段構えの戦略です。
ポーターの差別化戦略とブルーオーシャン戦略の組み合わせとして説明できる。国内の「レッドオーシャン(過当競争の和菓子市場)」を避け、海外の「和菓子に対する価値基準が未形成の市場」で高付加価値のポジションを確立するアプローチ。
外国人客向けの「製品適合(プロダクト・アダプテーション)」
海外進出において欠かせないのが、現地の嗜好に合わせた製品のモディファイ(修正)です。フランスやスペインの消費者は、日本人とは異なる味覚や食感の好みを持っています。たとえば、餡(あんこ)に対する馴染みが薄いため、抵抗感を減らす工夫が必要です。
笹沼氏はこの課題に対し、羊羹の形状変更、ハーブやフルーツを活用したフレーバーの最適化、見た目の美しさを重視したプレゼンテーションの工夫などを進めています。これは国際マーケティング論における「製品適合戦略」の実践に他なりません。
「海外消費者の嗜好(味覚・食感・見た目の好み)を綿密に調査し、伝統的な和菓子の製法を基盤としつつ、フレーバーや形状を現地市場に適合させることで、新たな顧客層を創造する。これにより、国内市場の価格競争からの脱却と、ブランド価値の国際的な向上を同時に実現する」
事例IIの後半で頻出の「今後どのような施策を打つべきか」という設問に対して、「標的顧客の特性に合わせた製品のモディファイ」は極めて強力な回答パターンです。
6.【組織論の視点】家族経営における役割分担と権限委譲
丸三老舗の成功を語る上で見逃せないのが、奥様の笹沼敦子氏の役割です。EC運営、SNSマーケティング、顧客コミュニケーションといったデジタル領域を敦子氏が一手に担い、笹沼和彦氏は製品開発と海外事業という「現場の最前線」に集中するという明確な役割分担が機能しています。
この役割分担は、事例I(組織・人事)で問われる「権限委譲」と「後継者育成」の論点に直結する。中小企業の家族経営においては、経営者が全てを抱え込むことが組織的なボトルネックとなりやすい。丸三老舗のケースでは、デジタルマーケティングという成長ドメインを配偶者に委譲し、経営者自身は中核的な製品開発と戦略立案に専念する構造が、再建の推進力となっている。
事例IIの解答であっても、「組織的な視点」を一言添えるだけで答案の厚みが格段に増します。特に「ECの運営体制をどう構築するか」という問いに対しては、「誰が担うのか」まで踏み込んだ記述ができると理想的です。
7.【総括】二次試験の答案に盛り込むべき「3ステップ」
もし試験で「伝統ある地方の食品メーカーが多額の負債を抱えつつも再起を図る施策を助言せよ」と問われたら、以下の3ステップでロジックを組み立てましょう。
- 1【現状打破】財務状況を正確に把握し、不採算チャネル(店舗)を大胆に整理する。「選択と集中」により固定費を削減し、まず出血を止める。
- 2【基盤構築】地元食材×伝統技術という「既存の強み」を最大限に活かし、EC等のデジタルチャネルによる全国販路でキャッシュフローを安定させる。
- 3【未来創造】国内の過当な価格競争を避け、海外市場や新ターゲット(若年層・外国人観光客)に向けた「製品のアップデート(洋風化・高付加価値化)」を行い、ブランドの再定義を図る。
丸三老舗の事例が私たちに教えてくれるのは、「守るべきもの(味・技術・想い)」と「変えるべきもの(販売手法・価格設定・市場)」を明確に分けることの大切さです。これはまさに、診断士が企業に助言する際の根本原則でもあります。
8.【練習問題】自分の解答骨子を作ってみよう
最後に、本記事の内容を踏まえた練習問題を出しますので、ぜひご自身の答案骨子(箇条書きで構いません)を作成してみてください。
設問1(強み・弱み):丸三老舗の強みと弱みを、それぞれ40字以内で3つずつ挙げよ。
設問2(チャネル戦略):丸三老舗が8店舗から1店舗へ縮小しつつも売上を維持できた理由を、80字以内で述べよ。
設問3(今後の施策):丸三老舗の社長から「今後3年間の成長戦略について助言がほしい」と依頼を受けた。100字以内で助言せよ。
解答作成のコツは、必ず「根拠→施策→効果」の3点セットで書くことです。「○○という強みを活かして、△△を行うことで、□□が期待できる」という構文を意識してください。
解答骨子のヒント
設問3について少しだけヒントを出しましょう。成長戦略を考える際に有効なのは、時間軸で施策を整理することです。「短期(半年以内)」「中期(1〜2年)」「長期(3年)」の3段階に分け、それぞれで達成すべきゴールを明確にします。
短期では、EC経由のリピート率向上やSNSを活用したUGC(ユーザー生成コンテンツ)の促進が考えられます。中期では、インバウンド向け商品ラインの本格展開やふるさと納税返礼品としての登録拡大が候補となるでしょう。長期では、海外拠点の確立やOEM供給による収益の安定化が視野に入ります。
このように、施策を時間軸で構造化する習慣をつけておくと、本番でも焦らず論理的な答案を書くことができます。
最後に|「老舗の変革」は二次試験の王道テーマ
過去の二次試験を振り返ると、「地方の老舗」×「変革」というテーマは繰り返し出題されています。その背景には、日本全体が直面する「人口減少」「地方経済の縮小」「デジタル化の波」という構造的な課題があります。丸三老舗のケースは、これらの課題すべてに対する実践的な回答を含んでおり、まさに「生きた教科書」と呼べる存在です。
丸三老舗は現在も進化を続けている企業です。笹沼氏は「おいしさの定義は時代と共に変わる。守るべき伝統は守りながら、変えるべきところは変え、お客さまに満足いただきたい」と語っています。この「根拠ある大胆さ」を、ぜひ皆さんの二次試験の解答にも取り入れてみてください。
皆さんは、この老舗の変革においてどの施策が一番の「勝因」だったと思いますか? ぜひご自身の考えをまとめてみてください。次回は、事例IIにおける「インバウンド×地域資源」の攻略パターンについても深掘りする予定です。
老舗
鹿島菓匠 丸三老舗|公式サイト
文政5年(1822年)創業。茨城県鹿嶋市・鹿島神宮参道の老舗和菓子店。天皇陛下御献上菓「常陸風土記」や季節の上生菓子、オンラインショップでの全国配送も。
🔗 marusanrouho.jp
※ 本記事は中小企業診断士試験の学習を目的とした分析記事であり、丸三老舗様の公式見解を代表するものではありません。
