大学における働き方改革の一環として、**「専門業務型裁量労働制」**という制度が広がっています。しかし一方で、制度の誤解から「講義がない日は大学に出勤しなければならない」と指導する管理職が存在するのも事実です。
本記事では、大学における専門業務型裁量労働制の正しい理解と、在宅勤務の可否に関する誤解について、丁寧に解説します。
制度の基本:専門業務型裁量労働制とは?
まずは制度の基本から押さえておきましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
法的根拠 | 労働基準法第38条の3 |
対象業務 | 研究者、大学における教育・研究など14業務 |
適用者 | 教授、准教授、講師などの大学教員が該当 |
本質 | 労働時間の管理ではなく、成果・裁量を重視 |
この制度の要点は、以下の通りです。
- 実労働時間ではなく「みなし労働時間」で計算する
- 業務の遂行方法や時間配分は労働者の裁量に任せる
- 場所や時間に縛られず、自律的に働くことが前提
つまり、「大学にいなければならない」「決まった時間に働かなければならない」といった考え方は、制度の趣旨と正反対なのです。
「在宅勤務は不可」は制度への誤解
実際に大学現場では、以下のような発言が聞かれることがあります。
「会議や講義がなければ年休を取ってほしい」
「在宅勤務は制度上できない」
「出勤していなければ勤務と認めない」
こうした発言には、明確に次のような問題があります。
❌ 誤解1:在宅勤務=欠勤扱い
専門型裁量労働制は「どこで働くか」についても裁量を認めており、在宅勤務であっても労働時間は発生します。つまり、大学に不在であっても、勤務は成立します。
❌ 誤解2:労働時間を管理する必要がある
裁量労働制では、「何時間働いたか」ではなく、「成果に応じた働き方」が前提です。したがって、出勤簿による時間管理は制度と相いれません。
❌ 誤解3:一律に出勤させることが可能
以下のような作業は、むしろ在宅での効率的な遂行が期待されます。
- 論文・教材の作成
- 授業計画の立案
- 学生レポートの評価
- 外部研究機関とのオンライン会議
学部長・学科長こそ制度を理解すべき理由
大学における管理職(学部長・研究科長など)には、労働法制を理解した上での適切なマネジメントが求められます。制度の運用に関する誤解があると、以下のような問題が発生します。
● 制度上のトラブルや労使紛争
制度に反した出勤強要や、在宅勤務の不当な否認は、労働基準監督署への相談や、内部告発の対象になり得ます。
● 教員のモチベーション低下
不合理な指導や管理は、教員の研究意欲や教育への集中を阻害します。結果として、学生サービスの低下や、大学全体の評価低下にもつながりかねません。
管理職が意識すべきポイント(一覧)
誤解してはいけない点 | 正しい理解 |
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「裁量労働制=自由出勤ではない」 | ⭕ 業務裁量を前提とする |
「在宅勤務は許可制」 | ⭕ 教員の自主判断に委ねられる |
「出勤していない=勤務していない」 | ❌ 講義・研究・添削など在宅可能業務も多い |
「年休取得を強制できる」 | ❌ 自主裁量と相反し、違法性を問われる可能性 |
おわりに:制度を正しく理解し、信頼に基づく大学運営を
大学は「知の創造」の場であり、その主役である教員の働き方を柔軟に捉えることが、真の教育・研究の質を高める第一歩です。
専門業務型裁量労働制の下では、時間と場所に縛られない働き方が制度的に保障されています。したがって、講義や会議のない日に在宅勤務を行うことは、まったく問題のない行為であり、むしろ制度上当然に認められるものです。
大学の管理職に求められるのは、こうした制度趣旨を正確に理解し、構成員の裁量を信頼することです。労働法に無理解なまま硬直的な管理を行うことは、大学経営の健全性を損なう重大なリスクを孕んでいます。
今こそ、教育・研究の質を高めるためにも、管理職自身が制度と向き合い、対話と信頼を軸とした運営体制を築いていくことが強く望まれます。

